〜 世界の芸術家たちの心を奪う美しく偉大な日本の誇り 〜
『富士山「北斎・広重を魅了した四季折々の絶景」』とのタイトルで2026年5月3日に放映されたTBS世界遺産。
カメラはCanonを愛用し、旅するときには、その愛機を手に、アートをテーマに美術館や世界遺産巡りをする私には外せないトピックでした。
わずか30分の番組ですが、今回も見応えあり。
TBS世界遺産の公式サイトにはアーカイブが残されていますが、私なりに復習をしてみました。
✔️TBS世界遺産公式サイトアーカイブ(放送内容)はこちら
https://www.tbs.co.jp/heritage/archive/20260503
富士山は「自然遺産」ではなく「文化遺産」
まず改めて驚かされるのが、富士山がユネスコ世界遺産に登録された際、「自然遺産」ではなく「文化遺産」として登録されたことです。
その正式名称は、
富士山-信仰の対象と芸術の源泉
(Fujisan, sacred place and source of artistic inspiration)
標高3776m、日本最高峰。
日本列島のほぼ中央に位置し、どこから見ても美しいその姿は、古来より人々の信仰対象であり、同時に数多くの芸術家たちを魅了してきました。
番組では、いつもながら、撮影クルー陣による映像美も印象的でした。
富士山の上空に現れる「かさ雲」や「つるし雲」。
✔️TBS世界遺産公式サイトアーカイブ(ギャラリー)はこちら
https://www.tbs.co.jp/heritage/archive/20260503/gallery.html
刻々と表情を変える自然現象は、まるで富士山そのものが生きているかのようで、芸術家たちがこの山に心を奪われた理由がよく分かります。
広重と北斎が描いた富士山
番組では、浮世絵の巨匠たちによる富士山作品も数多く紹介されました。
<歌川広重が描いた富士山>
- 《東海道五拾三次之内 由井 薩埵嶺》
- 《東都名所 日本橋之白雨》
- 《名所江戸百景 浅草田甫 酉の町詣》



広重の作品は、人々の暮らしや旅の風景の中に富士山を溶け込ませるような魅力があります。
遠景として描かれていても、確かにそこに存在感を放つ富士山。
“人々と共にある山”として描かれているように感じました。
<北斎が描いた富士山>
一方で、広重のライバルと言われる葛飾北斎。
《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》はあまりにも有名ですが、番組では特に「赤富士」として知られる、《冨嶽三十六景 凱風快晴》が印象的でした。


大胆な色彩表現にも思えますが、実際に条件が揃うと、富士山は本当に赤く染まるのだそうです。
- 雪のない季節
- 雨上がり
- 空気の澄んだ快晴の早朝
その極めて限られた条件下で現れる奇跡の瞬間。
番組では撮影隊が山中湖からその赤富士を捉える撮影に挑戦していました。
午前5時。朝日を浴びて赤く染まる富士山。
しかし、その光景はわずか2分ほどで終わってしまったとのこと。
まさに、一瞬の自然現象を永遠の芸術へと変えた北斎の眼差しに驚かされます。
富士山と「水」が生み出す絶景
富士山は、水との組み合わせによっても数々の芸術を生み出してきました。
<白糸の滝>
世界遺産の構成資産の一つである「白糸の滝」。
その幻想的な景観は、平井顕斎の《白糸瀑布真景図》にも描かれています。
“真景図”とは、実景をもとにしながら、作者の心象風景も重ね合わせて描く山水画。
単なる写生ではなく、「心に映った風景」なのだと思うと、とても日本的な美意識を感じます。
なお、平井顕斎《白糸瀑布真景図》の画像は著作権上の都合により掲載を控えますが、参考として白糸の滝の風景写真を掲載します。

<逆さ富士>
豊かな水景が生み出す「逆さ富士」。
北斎の《冨嶽三十六景 甲州三坂水面》では、水面に映る富士山を大胆な構図で描いていました。

また、番組では、
- 田貫湖で年2回だけ見られる「ダブルダイヤモンド富士」
- 水田に映り込む鏡のような逆さ富士
なども紹介されており、自然そのものが一枚の絵画のようでした。
富士山は古来より「言葉」でも描かれてきた
富士山は、絵画だけではなく、古くから和歌の世界でも人々を魅了してきました。
番組では、奈良時代の歌人 山部赤人による『万葉集』の歌も紹介されていました。
田子の浦ゆ うち出でて見れば
真白にそ 富士の高嶺に 雪は降りける(たごのうらゆ うちいでてみれば
ましろにそ ふじのたかねに ゆきはふりける)
これを現代語訳すると、
「田子の浦を通って外へ出てみると、富士山の高い峰には真っ白な雪が降り積もっていたことだ」
という意味になります。
およそ1300年前の人もまた、雪をまとった富士山の神々しい姿に心を震わせていたのです。
写真も映像もない時代。
だからこそ、人々はその感動を「言葉」で残そうとしたのでしょう。
その想いはやがて浮世絵へと繋がり、さらに海を越えて世界の芸術家たちへと受け継がれていったのかもしれません。
三保松原と芸術
富士山を語る上で欠かせないのが、三保松原です。
世界遺産の構成資産の一つでもあるこの場所は、実は富士山から約45km離れているにも関わらず、「芸術の源泉」として登録されました。
番組では、
- 《東海道五拾三次之内 江尻 三保遠望》
- 《冨士三十六景 駿河三保之松原》
- 《六十余州名所図会 駿河 三保のまつ原》
など、歌川広重による作品が紹介されていました。



松は古来、神が宿る木とされ、松原そのものが神聖な場所。
三保松原は、能の名作『羽衣』の舞台としても知られています。
『羽衣』の伝説とは、天女が松の枝に衣をかけ、漁師とのやり取りの末に舞を舞いながら富士山の方へと空へ帰っていく物語で、三保松原という場所を単なる風景から「物語のある聖地」へと昇華させました。

三保松原は、天界(富士山)と人間界が交わる聖地であり、その絶景は富士山を神聖な「信仰の対象」、かつ比類なき「芸術の源泉」として象徴する場所です。
富士山は世界の芸術家たちを魅了した
19世紀後半、パリ万博をきっかけに起きた「ジャポニスム」。
日本の浮世絵は、西洋の芸術家たちに衝撃を与えました。
北斎の、
- 《東海道品川御殿山ノ不二》
- 《尾州不二見原》
- 《甲州三島越》
- 《甲州石班沢》
などの作品は、西洋の画家たちにも大きな影響を与えます。




フィンセント・ファン・ゴッホもその一人。
ゴッホは日本の浮世絵に強く魅了され、その影響は作品にも表れています。
例えば、《タンギー爺さん》の背景には、富士山を含む浮世絵が描かれています。


エッフェル塔と「もう一つの富嶽三十六景」
今回特に興味深かったのが、アンリ・リヴィエールによる《エッフェル塔三十六景》。

パリの浮世絵師とも呼ばれた彼は、北斎の《冨嶽三十六景》へのオマージュとして、エッフェル塔(世界遺産)をテーマに36枚の連作を制作しました。
作品の構図や視線誘導には、明確に北斎からの影響が見られます。
リヴィエール《パッシー河岸より 雨》
→ 北斎《遠江山中》


リヴィエール《コンコルド広場より》
→ 北斎《駿州江尻》


リヴィエール《バ・ムードンの駅より》
→ 北斎《御厩川岸より両国橋夕陽見》


富士山が、海を越えてエッフェル塔へと受け継がれていく。
その芸術の連鎖に、とても胸を打たれました。
おわりに
雄大で、神秘的で、時に儚い。
北斎や広重が見つめたそんな富士山は、現代に生きる私たちにとっても、まだ尽きることのない芸術の源泉なのかもしれません。
富士山は単なる「美しい山」ではなく、人々の祈りや感性、そして創作意欲を何百年にもわたって刺激し続けてきた存在なのだと、改めて感じた30分でした。
いつも過酷な撮影現場から、美しく感動の映像とストーリーを届けてくださるスタッフ皆さん、そしてCanonのカメラにも感謝です。
ちなみに…
次回(2026年5月10日(日) 18:00〜)のTBS世界遺産は、『名作映画で巡る世界遺産』という特別編とのこと。
これもまた、映画好きの私には外せないテーマなので、楽しみです。

