〜 見逃すところだった、心に残る一本 〜
実は、私はこの映画、元々は全く観るつもりはありませんでした。
『ひつじ探偵団(原題:THE SHEEP DETECTIVES)』というタイトルから受ける印象は、面白おかしく可愛らしいファミリー向け作品。
しかも私は基本的に、洋画は字幕版でしか観ないのですが、こうした作品は地域や劇場により、吹き替え版のみの上映になることも少なくありません。
そのため、今回も「自分とはあまり縁のない映画だろう」と思い込んでいました。
ところが、上映スケジュールを確認してみると、行きつけのTOHOシネマズ仙台でも字幕版が上映されていることが分かりました。
ハリウッドを代表するスターの一人であるヒュー・ジャックマン(Hugh Michael Jackman)出演作品でもありますし、海外での評価も高いようです。
「字幕版があるなら観てみようかな」そんな軽い気持ちで映画館へ向かったのでした。
しかし、その選択は思いがけず、私にとって大切な映画との出会いになりました。
最初は距離を感じていた
映画が始まった当初、私はどちらかというと物語そのものよりも映像表現の方が気になっていました。
羊たちはリアルだけれども、どう見てもCGです。
一方で、ヒュー・ジャックマン演じる羊飼いのジョージは、ごく自然に羊たちと接しています。
「これはどうやって撮影しているんだろう?」そんなことを考えながら観ていました。
また、登場人物たちもどこか現実離れしています。
少し間の抜けた警官や、個性の強い村人たち。
最初は「映画だからこういう演出なのかな」と感じていました。
ところが、気づけばそんなことは全く気にならなくなっていました。
いつの間にか私は、あの不思議な世界の中に入り込み、羊たちのことを心配し、彼らの行く末を見守っていたのです。
まさか涙するとは
この映画は間違いなくコメディーです。
何度も笑わされました。
ところがなんと、この羊たちが主人公のミステリー映画で、私は涙することにもなったのです。
映画館を出た後も心に残り、パンフレットを読み進めると観た時の感動が思い出されてきて、再び涙が込み上げてきました。
なぜだろうと考えてみると、この映画は単なるミステリーではなかったからだと思います。
そこには、
- 大切な存在を失うこと
- 仲間を想うこと
- 誰かを記憶の中で生かし続けること
- 物語が人を支えること
そんなテーマがそっと流れていました。
羊たちは羊でありながら、驚くほど人間らしい。
いや、もしかすると人間以上に素直に感情を表現していたのかもしれません。
そこに違和感を覚えるどころか、だからこそ、私は彼らに共感し、心を動かされたのだと思います。
ヒュー・ジャックマンの言葉
パンフレットの中で、主演のヒュー・ジャックマンはこんなことを語っています。
脚本を読み始めて25ページほどのところで出演を決意し、最後まで読み終えた時には、自分でも驚くほど涙が止まらなくなった、と。
映画を観る前なら、少し大げさに思えたかもしれません。
けれど、観終わった今の私には、その気持ちがよく理解できます。
ヒュー・ジャックマンはまた、脚本に”理屈抜きに惹きつけられる何かがあった”とも語っていましたが、この作品には確かに、人を理屈抜きに惹きつける魅力があると感じます。
そして、ジョージという人物が本当にそこに生きているように感じられたのは、ヒュー・ジャックマンの存在があったからこそだと思います。
羊たちが彼を慕う理由。
彼を失った悲しみ。
そのすべてに説得力がありました。
羊たちが主役なのに、本格ミステリー
また、この作品に驚かされたのは、ミステリーとしての完成度でした。
「羊たちが活躍するコメディー映画だろうけど、VFX(撮影技術・視覚効果)が気になるから、字幕版上映されるなら行ってみよう」くらいの気持ちで観に行った私には、そのコメディーとしての面白さだけではなく、かなり深い推理小説ばりな内容に感服。
物語が進むにつれ、散りばめられた伏線や謎が少しずつ繋がっていきます。
思わず「そういうことだったのか」と唸る場面もあり、予想以上に本格的なミステリーとして楽しむことができました。
羊たちは、本当にそこにいるようだった
それから、「あの羊たちは、一体どうやって撮影されているのだろう?」という疑問を持つのは、きっと私だけではないでしょう。
パンフレットによると、本作では羊の品種ごとの特徴まで細かく描き分けられているそうです。
実は、羊は犬よりも品種が多いとのことで、それぞれ見た目や性格に違いがあるのだとか。
さらに撮影現場では、本物そっくりに作られた羊のパペットを使ってリハーサルを行い、その後、映像の中で高度なCGへと置き換えていったそうです。
だからこそ俳優たちの視線や仕草に違和感がなく、羊たちが本当にその場に存在しているように感じられたのですね。
映画の冒頭では撮影技術の方が気になっていた私も、気づけばそんなことを忘れ、完全に羊たちの世界に入り込んでいました。

見逃さなくてよかった
この映画『ひつじ探偵団』は、もし字幕版が上映されていなかったら、私はおそらく、観ていなかったと思います。
もちろん、吹き替え版は吹き替え版なりの面白さがありますし、そちらを好む方もたくさんいらっしゃるでしょう。
それぞれの楽しみ方があると思います。
ただ、今回の私にとっては、字幕版上映があったからこそ、この作品と出会うことができました。
そして、その出会いに心から感謝しています。
映画には時々、最初から観るつもりだった作品以上に、思いがけない形で心に残る作品があります。
私の場合、今年は特に、そんな出会いが続いている気がします。
振り返ってみると、それらは必ずしも公開前から注目していた作品ではありません。
むしろ、「少し気になる」「なんとなく惹かれる」── そんな小さなきっかけから足を運んだ作品…
直感というほど大げさなものではないのかもしれません。
けれど、心のどこかが向いた方向へ少しだけ歩いてみると、思いがけない景色に出会えることがあります。
映画『ひつじ探偵団』は、まさにそんな一本でした。
可愛らしい羊たちのミステリーだと思っていたら、気づけば笑い、そして涙していました。
私は今、「この映画を見逃さなくて、本当によかった」と思っています。
映画『ひつじ探偵団』公式ホームページ:https://hitsuji-tanteidan.jp/
ちなみに、この原作本『ひつじ探偵団〔新版〕』が、今回の映画公開にあわせて販売されています。
本書の原題は『Glennkill(グレンキル)』で、これは、小説中に登場するアイルランドの架空の村の名前です(映画ではイギリスが舞台)。
2005年にドイツで刊行され、20年以上に渡り世界で愛されている、作家レオニー・スヴァン(Leonie Swann)によるベストセラー推理小説で、日本でも2007年に刊行されていますが、今回の映画公開にあわせて”新版”として復刊しました。
映画とはまた趣の異なる面白さを味わうことができます。
✔️『ひつじ探偵団』が上映されている劇場はこちら:
https://hitsuji-tanteidan.jp/theater.html




