埼玉と栃木で堪能した秋の芸術と美食などなど
6年ほど前から、秋には栃木に行くのが恒例となっています。
以前勤めていた職場で心を病んで亡くなった方のご実家が栃木で、それから毎年お焼香をあげさせていただくために赴いているのですが、ご縁というのは不思議なもので、亡くなった方のご両親がお二人とも芸術好きでいらして、私も趣味が共通していたこともあって、すっかり仲が良くなり、私がお邪魔する時はほぼ丸一日、一緒に過ごしてくださいます。
私などがおもてなししていただけるなんておこがましいことですが、毎回素敵な食事をご馳走してくださり、今回もなんとまあ、贅沢なランチタイムでした。
連れて行ってくださったのは、宇都宮市にある「茶寮 やすの」という割烹店。
個室を予約してくださっていて、ご夫妻も初めてだという素敵な離れに通されました。
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お部屋からは日本の四季を感じられる庭を望むことができ、もうこれだけでも満足。
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この素敵な空間で味わわせていただいたのは、これぞ和食!な懐石料理でした。
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栃木の郷土料理「しもつかれ」をこの時初めていただきましたが(上の写真では白い花形の小皿に盛られた料理)、見た目から想像した食感と違ってほろほろと柔らかく、すごく美味しかったです。
鮭の頭と大豆、根菜、中でも大根や人参は「鬼おろし」(竹でできた目のあらいおろし器)でおろさなきゃダメで、そこに酒粕も加えて、じっくり煮込んだ手の込んだ料理なんですって。
それにしても、季節を感じることができ、目で楽しみ、味に感動し、まさに日本の無形文化遺産「和食」、改めて日本人で良かったと、美味しい食事とともに幸せを噛み締めました。
だいぶゆっくりとランチタイムを楽しんだのちに連れて行っていただけたのは「さくら市ミュージアム-荒井寛方記念館」。
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栃木県さくら市(当時は塩谷郡氏家町)出身の画家である荒井寛方が院展同人としてその名を刻んでいることが縁で、こちらの美術館では7年前から毎年「院展」が開催されているそうです。
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日本画界をリードする「日本美術院」の公募展は、今年も豪華で、この国にはなんて才能豊かな人たちがいるんだろうとため息をついてばかりでした。
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さて、話が前後しますが、この栃木滞在の前日は埼玉県へ行ってきました。
仙台から栃木はちょっとした旅になるので、せっかくなので、毎年栃木へ行く時期が近づくと、予め近辺で面白そうな美術展など催されていないかチェックするのですが、今回目に留まったのが、後述する川越市美術館で開催の「吉田博展」でした。
コロナもちょうど落ち着いている今、栃木の隣の埼玉なら行かない手はないなと思い、足を伸ばした川越市。
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江戸時代の城下町として栄え、蔵造りと呼ばれる建築様式の古い土蔵や、伝統的な商家が連なる町並みは、風情があて素敵でした。
が、正直、車と人の多さにも圧倒され、コロナじゃなくても人混みが苦手な私は、目的地以外はほとんど寄り道することなく歩き進めました。
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一つ目の目的地は「山崎美術館」。
この近辺には甘味処や料理店が並んでいて、ちょうどお昼時、どこも人が行列を作っていたにもかかわらず、こちらはひっそりとしていました。
ちょっとマニアックな美術館なので、本当にアートファンじゃない限り、素通りしてしまうのかもしれません。
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川越の古い町並みの一角にある山崎美術館は、和菓子の老舗である亀屋の蔵を開放し、その山崎家代々に伝わるコレクションを展示しているこぢんまりとした美術館。
川越藩のお抱え絵師で狩野派の画家だった橋本養邦の息子、橋本雅邦の作品を収蔵しています。
橋本雅邦は、岡倉天心やフェノロサらの東京美術学校設立にも携わった一人でもあり、日本美術界の歴史上で重要な人物です。
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橋本雅邦の貴重な作品を見ることができ、土蔵の建築も趣があって、川越のいかにも観光地な賑やかな屋外からは隔離された感覚を味わうことができました。
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ちなみに、入館料は大人500円で、見る所は少ししかありませんが、見学後はお茶と和菓子もいただけます(セルフサービスにて)。
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ホッと一息ついて、次に向かったのが、この日の第一の目的の場所。
次の写真は、その通り道、川越の観光名所「時の鐘」です。
この写真に人は写っていませんが、名所と言われるだけに、実は写真を撮る人達が群がっていました。
焼失して再建されたものに、そんなに人が集まってどうするんだろう・・・と冷めてる私は、遠くから1枚だけ写真を撮って、目的地へと進みました。
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第一の目的だった所はこちら「川越市立美術館」です。
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私がすごく見たい!!と思っていた「没後70年 吉田博展」が開催されているのがこちらだったのです。
正直に言いますと、吉田博(ヨシダヒロシ)という画家については、栃木界隈で面白そうな展覧会やってるかなとWeb検索したその時に初めて知りました。
検索した時に目に飛び込んだ絵を見た時点ですごく惹かれて、是非とも実物をこの目で見たい!!と思ったのでした。
この展覧会を見たことで知りましたが、事実として、吉田博は海外では人気なのに、ここ日本ではこれまで埋もれて来た画家だったのだそうです。
私がそうであったように、知らない人が多くて当たり前だったわけだけど、なぜこんな素晴らしい作品を生み出した日本人画家が、ここ日本では日の目を見なかったのか!!というほどの、本当に素敵すぎる作品ばかりでした。
吉田博は、1876年に福岡県久留米市に生まれ、洋画家としてデビューし、水彩、油彩で才能を発揮していましたが、アメリカに乗り込んだ時に、江戸時代の浮世絵が人気を浴びてるのを目にして、西洋画の微妙な陰影を版画で表現しようと49歳にして思い立ち、木版画に打ち込むようになったのだそうです。
・・・そうなんです、この展覧会で展示されていたほとんどが、木版画!
木版画で描いたなんて、一体どれだけの手間がかかっているのでしょう・・・
しかも、吉田博は、超現場主義だったとも言われています。
当時にには珍しく、海外を渡り歩いた吉田博は、山岳画家とも呼ばれ、壮大な自然の風景を描くために、想像ではなく、自ら現地へ赴き、険しい山をも登り、うつろいゆく風景の美を求め、本物の瞬間を捉えるために描きたい現場に滞在するなど、アーティスト魂が半端なかったそうです。
また、当時の日本美術界といえば、政治家でもあった洋画家の黒田清輝率いる白馬会が台頭しており、その状況に反発心を抱いた吉田博は、真っ向から対立していたそうで、そのせいもあったのでしょう。
美術好きなら黒田清輝は当たり前に知る画家(教科書等にもよく出てくるので、美術好きでなくとも絵は見たことある人が多いはず)ですが、そんな人と対立してしまった吉田博は彼らに潰されてしまうような立場だったのかもしれません・・・
脅威的とも言える情熱と、反骨精神から生み出された日本人にしか描けないオリジナリティ溢れる数々の作品の素晴らしさには、もう息を飲むばかりでした。
ご多分にもれず、吉田博の作品は実物を直接見るのが絶対に良いのですが、図録で見てもすごく良くて、もちろん今回も購入した図録、これはもう宝物です♪
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右奥が「マタホルン山(スイスのマッターホルン)」、左上が「冨士拾景 河口湖」、左下が「ナイアガラ瀑布」
この「没後70年 吉田博展」は山梨→福岡→京都→東京→三重→静岡と巡回し、川越が最後の会場で、今月末(2021年11月28日)まで。
最後の最後というこの貴重な機会に間に合って、本当に良かった!!
私にとっては、多分ここ数年で見た美術展の中でも一番とも言えるのではないかという感動を得ることができました。
この展覧会を見た翌日に、先に書いた、私と同じくアート好きな栃木のご夫妻に会ったので、この感動を共有したいと図録をお見せしながら話をしたのですが、お二人もやはり図録を見ただけでうなり、これは見に行きたい!行くか!!となっていました(笑)
今週末あたり行こうかっておっしゃってたけど、行かれたかしら・・・
そして来年は茨城にある岡倉天心美術館(茨城県天心記念五浦美術館)まで足を伸ばそうかというお誘いも下さいました♪
もう来年も今から、芸術の秋が楽しみでならないです。大感謝!!
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