マザー・テレサを取材し続けた沖守弘氏
私は本が好きなのですが、保管場所も限られているので、定期的に本棚を整理し、手放す本を考えることにしています。
先日も、その作業をしていたのですが、この本は絶対手放さないぞ!と改めて心に誓った本がありますので、ご紹介したいと思います。
それは、沖 守弘(おき もりひろ)氏による「マザー・テレサ あふれる愛」(講談社 青い鳥文庫)です。
アマゾンでの評価が高いのも、納得できます。良書です!
なお、この本には「青い鳥文庫」バージョンではないものもありますが、「青い鳥文庫」は小学中級以上向けに作られていますので、分かりやすく、写真も豊富で、老若男女どなたにも読んでいただけるので、お勧めです。
(完全にルビが入っているので、返って読みづらいと感じる方もいるかもしれませんが…)
また、マザー生誕100年の2010年に出版されましたので、記念本でもあるような形ですね。
著書の沖氏の活動により、マザーの来日が実現したということはあまり知られていないことだと思いますが、この本を読めばその理由が分かります。
沖守弘氏は、マザー・テレサを撮り続けた写真家として有名な人です。
1950年から社会的テーマを題材とした報道写真家として活躍し、1974年からマザー・テレサを撮り始め、彼女が1997年87歳で亡くなるまで追い続けます。そして、2018年89歳で、その生涯を閉じました。
この本によると、沖氏は、マザー・テレサを取材始めた初期の頃は、悲惨な状況を収めることにフォーカスをあて、陰惨で目を背けたくなるようなカットに異常に執着していたそうです。報道写真家ですから無理もないと思いますが、沖氏自身が、途中でそれが間違いであることに気がついたと言います。
「正直に言って、マザーの<死を待つ人の家>をみたとき、ぼくは、これはとくダネだ、くいついて撮りつづけていけばモノになるぞと、功名心にかられていた。一種の現世欲から、この仕事は始まったのだ。」
「ぼくは、あきらかに間違っていたのだ。ぼくが会ったマザー・テレサは、明るくて強くてラジカルで、だけどやさしく、不退転の意思と自分の進んでいる方向に絶対の確信をもった女性である。およそ悲壮感とは対極にある人である。それをぼくは、まったく逆にとらえ、しかも自分は正しいのだと傲慢にもきめこんでいたのだ。」
この沖氏の思いには、写真家でなくとも共感を覚える方が多いのではないのでしょうか?
現代は、不用意に人を不安に陥れる情報が多すぎます。
現実を知ることはもちろん大切ですが、自分のエゴや、人の関心を集めるための手段として発信されているのではないかとさえ感じることがあります。
一人でも多くが、あえて悲壮感に向かうような行為はせずに、少しでも穏やかに過ごすための選択ができるようになれば良いなと思います。
マザー・テレサは、1974年にノーベル平和賞を受賞しました。マザーの日本の息子と言われた沖氏でも、受賞によって多忙となり、体調を崩してしまったマザーにはすぐ会えなかったそうです。受賞の1年後に再会できた時、沖氏は、マザーに平和賞のメダルをつけた写真を撮らせてとお願いします。
しかし、
「受賞はね、もう過去のこと。メダルはしまってあるからここにはないの。オキ、わたしはね、ノーベル平和賞をもらうために、この活動をしているわけではないのよ。名誉とか勲章とか、わたしにはそんなに意味のあるものと思えないのよ。あなたは、わかってくれてるでしょうけどね。」
と、やさしくそしてキッパリと断られたそうです。
私は研究機関に勤めていたことがありますが、正直なことを言うと、研究が、人のためではなく、名誉のためになされているのではないかと思ってしまうことがありました(もちろん大体が人と世のためにされているということを書き添えておきます)。
現代は、ノーベル賞に限らず、様々な賞、勲章があり、人々が称えられますが、その受賞の裏には暗い世界がないことを願うばかりです。
また、エピローグの前の章、最後の頁では、このように締められています。
「マザーには、ノーベル平和賞受賞インタビューでの有名なエピソードがある。
『世界平和のために、わたしたちはどんなことをしたらいいですか?』と記者にたずねられ、ひとこと、こう答えたという。
『いますぐ家に帰って、家族を大切にしてください。』
平和は、愛は、まずわたしたちのまわりからはじまる、いや、はじめなければならないのだ。」
この本に関しては、ご紹介したい部分が山ほどあります。
楽しいエピソードもたくさんあって、心がほっこりすること請け合いです。
是非、一人でも多くの方に読んでいただけたら嬉しいです。
今回の私からの紹介は、沖守弘氏を中心としたお話になりましたが、この本では、マザー・テレサだけでなく、彼女を取り囲む素晴らしい人々についても述べられていますので、それらも交えて、また次回(カテゴリー:心の師匠)にご紹介したいと思います。
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